ざわめく枝

2022年05月23日

いま、サンルームは空っぽだ。

うつろに空間をもてあまし、そこには、

生け花ひとつ

花の咲きおわった鉢植えひとつない。

風で倒れたのだろうか

ついに咲くことのなかったつぼみと枝とを

水盤からとりのけて捨てた。

花が咲きおわったので三つの鉢は

一階に持っていった。

がらんとした心にぽっかり空いた穴のような。

わたしは窓の外に目をやる、

庭木のこずえがまだ新しい緑に萌えている。

ときおり風が枝をなぶる。

枝は空気の流れをうけて上下に揺れ、もてあそばれることしばし、

またもとのように無口に押し黙る。

風が見たい、さきほどのうつくしい波動がもういちど見たくて、こんどはじかに、

それでベランダに出る。

ひじをついて風を待つあいだ陽は眩しくかがやいて

みどりにそれは跳ねかえる。

さらさらと音がしてかすかに枝が揺れるが、

違う、わたしの欲しいのはもっと強いざわめきだ、揺るがすような。

そして待ち望んだ一瞬、

うねりが起こって枝は曲線を描いてたわみ、降伏するかのようにお辞儀をし、

やがて風はどこかへ行ってしまう。

わたしはじぶんの意思で動いているとおもっていた、

けれどそれは、枝が身勝手な風になぶられていただけだった。

あれほど大切にしていた理想も

誰かほかのひとの

わたしのことなど大して気にもとめないであろう

関わりのない者たちのそれでしかなかったことを知り、

信じてきたものは消え、

夢は、そして夢は、ガラスのように粉々になった。

破片を指先でひろいあつめようとすると

血がしたたり、

それが元どおりの形になるには、おそらくとても長い時間がひつようだとおもわれる。

風はわたしを捨てていった。

つよくなりたい、とおもう、もうお仕着せの信条をもたなくてすむように。

じぶんだけを信じて生きることができたら。

大地を踏みしめる野生の獣のように。