バラの園
旅行の切符を駅でとって
ロータリーで父にお待たせという。
父はクルマを走らせ
こんどはどこへ行くのか、とたずねる。
わたしが目的地を告げ、
お父さんも時間の融通がきくんだし、
どこか行ってくればいいのに、
というと、
ハンドルを握りながら
お母さんがあまり行きたがらなくてね、という。
わたしはコーヒー豆を買いにつきあって、
と父にたのみ、
喫茶店に向かってクルマが進みだすと
道の両脇を彩るのは
いま盛りのときを迎えたバラの花たちだった。
子どもの日も過ぎそろそろ連休も終わりに近づいている。
せっかくだし
お母さんも誘ってバラ園でも行ってみようか。
旅行がむりだというならせめて。
そんなことを考えていたら、翌日は天気予報に反して
少し風はつよいけれど晴れやかな空がひろがる気持ちのいい日和だった。
バラ園に行かない?
誘うと、お父さんもお母さんも乗り気だ、
クルマに乗りこみ出発する。
広い通りに出て学園のまえを通りかかると
ちょうどバラがいちばん美しいときを迎えていた。
きっと公園も満開だ。
程なくクルマは駐車場に着いて、
わたしは父と母を待つのもすっかりもどかしく助手席のドアを閉めると
先に立ってカメラを手に歩きだした。
途中、ついてきているかどうか振り返ると、
父と母がもうかなり離れてはいるが、こちらに向かって歩いてきているのが見える。
色彩の群れが視界にはいる。
誇らしげなバラたちを
丁重にカメラに収めなければならない。
清い水のほとばしる噴水を囲むようにして咲くバラたち。
通行人にさえぎられ
なかなか思うように写真を撮ることができない。
噴水をあきらめて向こうのほうに
レンズを向けると
微笑みあい語らいあう無数のバラたちが
ひとつの画面で
それぞれの色を放ちながらも朗らかに調和していた。
そうして写真をたっぷり撮ったあと
あたりを見わたしてみる、
ベンチに父母がいて、ふたりならんだ幸せそうなすがたが目にはいる。
陽ざし浴びて、
うつくしさという頂点にあるバラたちに囲まれて。