二つの命

2022年08月02日

カメの世話をしに

庭へ出た。

照りつける日ざしさえぎって、

佇む木々がカメの小屋のまわりに

涼しげな影をつくっている。

地面に落ちかかる木陰のとぎれるあたりで

小さな生き物を見つけた。

輝くきれいなトンボだ、

ほそい体と透きとおる羽根をした

白銀のシオカラトンボが

バケツにつっこんだひしゃくの柄にとまっていた。

カメの小屋のまえに置かれた空のバケツ、

そこに水をかき出すための金色のひしゃくと木でできた柄、

先にとまったシオカラトンボ。

わたしはこれからカメの世話をしなければならない、

ひしゃくでもって水を水槽からかき出して

新しい水をホースで入れ

そのフレッシュな水のなかでごはんをあげるのだ。

けれどそれには

このシオカラトンボにひしゃくの柄の先からどいてもらわなければならない。

なぜか、そうすることをためらわれた。

わたしはシオカラトンボに自然と話しかけていた、

そこが居心地いいのかい?

シオカラトンボは答えないで羽根を休めている。

生きているということ。

息づいている、ひとつの命。

小さな命。

そしてわたしもまた、ひとつの命。

脈打ち息づいて時間をともにしているということ。

この夏の日ざしあふれる庭という場所で

いっしょにいて、その場所をともに分かちあっているということ。