冬の夜、鯉は

2022年01月23日

夜には恐ろしげな風貌を呈する森も、

こうして昼あるくと、

小鳥の声がこずえのほうに聞こえ、

空は曇りがちながら明るく、

木々は落葉樹のみ葉を落とし寒々としているけれど

裸の枝々が明るみに手をさしのべている。

森はいま、すがすがしさに満ちた表情を浮かべている、

その森をわたしは歩いていく、

立ちどまっては、冬枯れの森のうつくしさに感動しながら

散歩のじゃまにならないコンパクトカメラで

感じとった風景を切り取りながら歩みを進めていく。

小鳥が、かぼそい声で愛らしく鳴く、

けれどこの限界あるコンパクトカメラでは

その姿を捉えることができない。

もうじき、流れが池をつくっているところにやってくる、そうしたら、

そこには撮影可能な距離で鴨が羽根を休めていることがあるし、

さらに行けば水のなかに鯉がいることもある、

黒い鯉もいれば緋鯉もいる、さて、どうだろう、それらは今日はいるだろうか。

やがて淀んだ流れが横たわるあたり、

浅く溜まった水が木々を映しているあたりにやってくる、

鴨の姿があるとすれば、このあたりなのだが。

わたしはさらに進む、

流れは広い池になって、対岸まで

木立ちを通り抜けながら素朴な橋が架かっている。

鯉がいるとすれば、あの橋の下に違いない、

橋の上を進んで手すり越しに下をのぞけば果たして鯉たちがたゆたっていた。

わたしは夢中で鯉と、水に映るうつくしく枯れたこずえとを写しとめる、

鯉が身をひるがえす瞬間を狙って。

上手く撮れた、木々のあいだを自由に泳ぐかのような悠然とした鯉の姿が写っている。

鯉は、自由で何ものをも恐れないかのように見えた、

たしかに昼はそう見える、

けれど、夜には氷の張るしたで震えているのかもしれない、

わたしに見えているこの魚の姿は、

わたしの写しとめたこの魚の自由でぴんと張り詰めたその姿は、

ほんの一部分でしかないのかもしれない、

わたしには、この水のつめたさがわからない、

どんな思いで冬の寒さを耐え忍んでいるかをかろうじて、想像するしかできない。

わたしには、あなたがわからない。

小さな幸せの中に囲われていて、どんな思いであなたが生きているか

ほとんど知らない。

素晴らしい写真をありがとう、そして、ごめんね。