和んだ時間
目つきの悪い野良猫が
いつも
うちに来る。
ごはんを食べ、ミルクを飲んで帰っていく。
母のお見舞いを一日だけ
お休みする。
食料品の配達日だし、
亀の世話をする日でもあるし、
それに
ひさびさに、水盤に生ける花も買いたい。
亀はエビをよく食べた。
お出かけするとき
野良猫クロちゃんは来ていなかった。
良い天気、
母が入院してから食事は手抜きを旨とするようになった。
この日もスーパーのお寿司、
これだってご馳走だ。
卵がたくさんあるからスパニッシュオムレツを明日はつくろう、
オムレツの具に茄子とマッシュルームを買う。
この茄子を
一本頂戴して今日のおみおつけにしよう。
勘定を済ませて、
お届けをお願いして、
身軽になって、花屋さんへと向かう。
ラッキーだ!
今日はドラセナがある。
幸福の木とも呼ばれている、水盤に生けると一ヶ月ぐらい長持ちして
そのあいだ、わたしの目を楽しませてくれる。
ドラセナを三本もとめるとバラをおまけにつけてくれたので、
トイレにでも飾ろうかと思う。
が、家に帰って
ドラセナを水盤に生けてみたら何か寂しくて
そこにバラを添えると
愛らしい小ぶりなバラに驚くほど、グリーンが見違えるように映えたのだった。
トイレに飾るだなんて言って、まことに失礼いたしました。
間もなく父親がお見舞いから帰ってきた。
クロちゃん来ているよ、父が叫ぶ、わたしはいそいそとキャットフードの用意をする。
ウェットフードと、それからミルク。
玄関ごしに、クロちゃ〜ん、と名前を呼ぶと、
みじかく、にゃあ、と答えが返ってくる、戸を押しあけると
クロちゃんはすっかり和んだ様子で
ごはんを待っている。
木のお椀にウェットフードを入れてやり、
子ども用の割れない陶器のお茶碗にミルクをついでやり、いったん、ミルクをしまいにいく。
それから、猫が安心して食べられるように見ていてやる。
美味しそうに、食べる様子が何とも微笑ましい。
食べるって
ふしぎなことだ。
ほかのいのちを頂くということであるはずなのに、
こうして愛しいものが食べる様を見ている
その時間は
かけがえのない和んだ時間だ。
クロちゃんは完食、じゃあね、クロちゃん、またおいで。
わたしは二階の窓辺に行って生けたドラセナとバラの写真を撮る。