夜に思う

2022年02月21日

こうして眠れない夜には、

いま、もうここにいない夫のことを考える。

夫が旅立ったとき、

病院から、両親のクルマで戻るところだった、

高速を走っていてふと、

明け方の空に飛行機が飛んでいくのが見えた、そのとき、

わたしはきっと夫はあの飛行機に乗って

アフリカで困っている人々を助けに行ったのだ、と

どういうわけか迷信のように

そんな妄想が頭から離れなかった。

照明を落とした部屋のなかでおもうのは、

夫と旅したさまざまな地、

夫と観た数多くの映画。

でも、余命宣告をされてからは仕事も休み、外出もほとんどしなかった。

いちどだけ、

S字フックや注射器など、胃ろうの道具をぜんぶクルマに積んで、

あらかじめ胃ろうの栄養パックを吊るすハンガーをホテル側に頼みこんで用意してもらい、

わたしたちが結婚式を挙げた記念の場所に一泊した。

スイートルームでいっしょに風呂に入りいっしょに眠った、

記念につくった短歌の数々、

いまはもう紛失してしまっている。

何処かで夫は、地獄に落ちると脅されたらしく、わたしに向かって、

自分は悪い子だから地獄に落ちるんだ、などという。

わたしはいつも考えていた答えを口にした、いまではもうここにいない夫に向かって、

ほんとうの天国はね、

少しでも良い心をもった人間は誰でも入れるんだよ、と。

特定の団体に属していてもいなくても、だよ。

まったく良い心をもたない人間なんている、いないでしょう? わたしたちのほんとうの神さまはね、

地獄に行くなんて脅したりはしないんだ。

そしてわたしは考える、

あの晴れわたる空のうえに天国はあるのだろうか、

天国には花は咲いているだろうか、

そこでは別れ別れになった子どもとも再会できるだろうか。

家族とも、亡くしたペットともふたたび温かな交わりを持つことができるのだろうか。

もし、そうだとしたら、そういう場所を仮定することはあながち、

意味のないことではないのかもしれない。