守り手
2022年03月16日
春が来てあんずの花が咲く頃、
蜂たちが働きはじめ、
カナヘビの赤ちゃんが愛らしい顔をのぞかせる頃、
うちにガーゴイルの彫像がやってきた。
飾り戸棚のグリフォンの隣りに、
恐ろしげな形相をして今まさに飛び立たんと
悪魔の彫像がつばさを広げている。
教会の屋根を守り邪気を払うガーゴイルが我が家に。
青い皮膚は少々グロテスクで
牙を剥く表情は
愛らしいとは言い難い、それなのにその彫像は紛れもなく
わたしのいちばんのお気に入りとなった。
ほんとうは旅行にでもどこにでもついてきて欲しいけれど、
ガーゴイルには、うちを守る仕事があるから無理。
わたしはいつも
ガーゴイルに見守られながらうちを出て
ガーゴイルに迎えられてうちに帰る。
散歩のあいだも、いつもわたしのとなりには、わたしの魂のとなりにはガーゴイルがいる。
わたしはよく生きる意味について考えていた。
けれど明確な答えは出なかった。
きっと生きる意味って、そんなに難しいことじゃないのかもしれない。
新しいものとの出会いに胸を高鳴らせ、
お気に入りをひとつずつリストに加えていって、心の飾り棚を喜びをもって眺めること。
恐ろしげな形相のガーゴイルは
わたしの生活の新たなパートナーとなってくれた。
これから、いっしょに時を重ねていこう。
どうか、わたしとこの世界とを守ってください。
わたしの守り手。
わたしたちの守り手。