思わぬ出会い
じゃあ、行ってきます、
わたしは、ぱたんとクルマの助手席のドアを閉め、
運転してくれた父親にそう言い残して
歩き出した。
病院へ、でも、こころがちょっと風邪をひいているだけ、
大したことじゃない。
白地にブルーの針の腕時計に目をやると、いま、二時十五分だから、
受付が開くまで、あと三十分もある。
駐車場のあった細い通りから
大通りへ出る、
横断歩道をほんとうは渡らないけれど、
渡った先には小さな神社さんがあったはずだ、寄っていこうかな。
今年は、ばたばたしていて初詣も行けなかったし、
ちょうど良いからお参りしていこう。
大通りを渡ると都会の真ん中、変わらずに鳥居はつつましく佇んでいる。
以前、来たときと変わらずに。
そういえば、何という神社だろう。
見上げた先には、櫻木神社と毛筆で書かれていた。
良い名だな、とおもい、
わたしはお賽銭をとりだすために、リュックサックに手をのばし、
初詣代わりだものね、と、大きな五百円玉をにぎりしめた。
そして、リュックサックにお財布をしまおうとしたとき、参道のわきに、
以前はなかったケージがあるのに気づいた。
金網ごしに、二羽のニワトリらしき姿がのぞいている。
でも、ちょっと待てよ、わたしは思う、
ふつうのニワトリとちょっと違うようじゃないか、白いのは同じだけれども、
体型はやや小さめで、
よく見ると二羽とも雌らしく、トサカと肉垂れもない。
それにしても考えてみたら、雌でも少しトサカがあるものなのに、この鳥にはそれもなく、
代わりに白い羽毛がふわふわと頭のてっぺんにユーモラスに踊っている。
しゃがみこんで二羽に話しかける、
きみ、だれ? ふつうのニワトリさんともちょっと違うみたい、
頭、ふわふわしているね、おもしろいね、
二羽はケージのなかを行きつ戻りつ、
穀物をついばんでは、ケージのなかをちょっと歩いて消化を助けるための砂を食んだり。
後ろに人の気配がして、わたしはやっと当初の目的を思い出す、
参道をすすみ、
本堂に向かい賽銭箱に五百円玉を丁寧に落とすと、
まず、とても身勝手なお願い事、
言うと叶わないというから言わないでおくけれども、
とても自分勝手なお願い事を念じて、それから、これだけじゃだめだよね。と思い至って、
みんなの幸せと、それから、家内安全のようなことをお祈りする。
そしてお辞儀をして参道を引き返し、
病院に行って薬をもらうと、
父親のクルマの停まっている細い通りの駐車場へと戻って、お待たせ、という。
調べたところ、わたしが出会った鳥は、
ウコッケイという天然記念物に指定されているほどの、とても貴重な種類のニワトリで、
少ない数の卵を産むが、
卵ひとつひとつの栄養価はとても高いのだという。
また、さいきんは、愛玩用としても慈しまれているのだとか。
小さな生き物と出会うといつも嬉しくなる。
いつも気づかされる、
わたしはこんなにも生き物の温もりを愛していると。
ふわふわ頭の可愛い子たち、あなたがたに出会えてほんとうに良かった、
思わぬ出会いを有難う。