日曜日
欲しいものは、と訊かれたら
友人、とこたえる。
でもなかなか心を許しあえる相手はむずかしい。
そんな日曜日、いつもより早く起きた。
肉は赤ワインとすりおろした玉ネギにつけこんである。
夕方、焼けばいいだけ。
あと野菜。
これはつくっておいて、あとで温めてもいいかもしれない。
フライパンに
バターをたっぷり、オリーブオイルも加えて炒め、
塩とローズマリー・パウダーとで味をつける。
ガラスの器に移してラップをしておく、今日は選挙の日だったっけ。
あわてて新聞に目をとおし、
出かける。
朝の日ざしはそんなに強くない。
それに住宅街のせいか暑さもそれほど耐えがたいほどではない。
投票所に着くと、
まだ九時前だというのにおおぜいのひとが訪れていた。
わたしも人名と政党名を書いた紙切れを
中が見えないよう二つにたたんで、銀色の金属でできた箱のすきまにさしいれる。
そして、さっぱりした気分で帰宅し、
パソコンに向かうと
待ち人のお話なんかを書いてみようかと考えはじめる。
と、そのとき幻想即興曲がながれ携帯電話の着信を告げ出した。
かかってくる相手は、ひとりしか思い当たらない。
ときおり電話をくれて雑談に応じてくれる、小さい頃、仲の良かった従兄だ。
リュックから携帯をとりだすと
案の定、思っていた氏名が表示されていた、
ちょっと気難し屋だけどいいひとだ、わたしは気分をひきたてるようつとめて明るく電話に出る。
今日は選挙ですよね、なんて話をして、
そんなに暑い日でもないですし行ってみてはどうですか、などと
自他ともに認めるおせっかいのわたしはいう。
ややあって、
従兄が映画の話をはじめる、
いつものように。
でも、その日すすめてくれた映画は、
彼がほんとうに心から気に入っている映画らしかった。
ほんの少しだけ
わたしに心をひらいてくれた?
うれしくて
ディスクを探して買います、というと向こうも
このあいだ送ってくれたDVDを見るかも、そうしたらまた電話します、といってくれた。
欲しいものは、と訊かれたら
友人、とこたえる。
その日、従兄が一歩だけわたしに近づいてくれた気がした。
舞いあがっちゃいけないかも、でも、いまはこの感覚を素直に受けとめたい。
わたしのリアル、期待と不安。