明日わたしは

ほおづえをついて外を眺める。

十階の部屋から

ガラス越しに

大きな橋が河にかかっていて対岸の街へ

つづいていくのが見える。

赤いテールランプを灯して向こう側へと渡るクルマ、

乳白色のヘッドライトをつけてこちらへ向かう

クルマたち、あるいは落ち着いた赤のルーフをした路線バス。

さっきまでは波のように行き交っていたが

いまは、ぽつりぽつりと

一台、一台とかすめていくだけだ。

今日の旅をふりかえる、

印象はつかもうとすると崩れていく、

心地よく包まれているあいだは何もかも手のうちのようだったのに

いざ書こうとすると

それまで調和のうちにあったものが

途端にバラバラになっていく。

わたしは窓辺から離れてテレビをつけてみたりする。

夕食にお寿司をいただいた、

あの味を書いてしまうと何だかもっともらしくなりそうで、

それでもこぼれ落ちないように書きとめる、

青魚、貝、大好きなので、

何でも食べられますのでおすすめのを

お腹いっぱいになるまで握ってください、

水族館へ行ってきましてね、

疲れたら宿に直行かとも思ったんですが余力があったので。

イルカのショーは観ませんでしたが、

熱帯魚とか可愛くて、

ペンギンが

電車を待つサラリーマンのようなツートンカラーで

けれど、つがいらしく口づけを交わしあったりやや小ぶりな一羽がもう一羽に寄り添ったり。

あ、のどぐろはいらないです、塩焼きで食べるほうが好きなので、

でも造ってしまったのでしたらいただきます。

炙ってあるんですね、

生のままだったらちょっとちがうかなと思うんですけど、

これだったら、何というか、のどぐろらしくてとっても美味しいです。

あら、って鯛のあらですか。

違いましたね、

あら、っていうお魚なんですね。

こちは聞いたことあるけれど食べたことない、

そのあたりをお願いします。

明日は佐渡へ渡るんです、フェリーでゆったりゆっくり行きます。

新潟は初めてです、

お魚の名前とかよく知らなくてごめんなさい。

前に佐渡に来たときは別のルートでした。

直江津から小木まで渡りましてね、良い思い出だったので、ぜひもういちど訪れたいと思っていたんです、

などと会話しながら食事を済ませ席を立つとお会計のスタッフさんにいう、

わたし、佐渡へ行ってまた金曜日に

このホテルへ戻ってきてまた泊まるので、またお寿司たべに来ます。

楽しいひとときを有難うございました、

で、店を出て自室へ戻り

暗くなりつつある窓の外を眺める。

橋げたの街灯の落とす色彩が水のうえで踊っている、

波のようにクルマが押し寄せては光の群れとともに橋のうえを過ぎ去っていく。

明日、船に乗って島へ渡る。

三十年ぶりに。時は戻らないかもしれない、けれども、もしかしたら何かが待っているかもしれない。

カーテンを閉め、部屋の照明をおとし眠りにつく。