春の目覚め

2022年02月28日

スーパーの駐車場のわきに

タンポポとオニノゲシが咲いていた。

もうそんな時期か、とおもい、

じぶんも分厚いコートが要らなくなっていることに気づく。

冬のあいだ眠っていたカメは

目を覚ましただろうか。

お母さん!

わたしは乱暴に母を呼び、

カメの目覚める支度をうながす。

まず、水槽をおおう保温用のふたを取り除けてみると、

ちょっともの憂げに、でも、そこにいた。

冬眠まえと変わらないすがたで。

わたしはほっとして、

それから水槽をきれいにするためにカメをいったんタライに移す。

おはよう、よく目覚めたね、といって、

どんなにこの時を待ち望んだか、とうたう、が、

一年に一度しかうたう機会のない歌なので、やや調子っぱずれではある。

それから水槽のそうじにとりかかる。

母に向かって、汲み出した水を捨ててくるように、とか、

濾過作用のある新しい砂利を用意して、とか、

指示を出しながら、

ひしゃくで古い水をバケツにかき出すと、

さいしょは口をあけて嫌々していたカメも首を伸ばして、

バケツの水を捨てにいくわたしと目が合って、つぶらな瞳を向けてくれる。

汲み出すまでがたいへん。

母に水槽を傾けてもらいながら、ぜんぶ古い水を汲み出す。

さいごに水槽をひっくりかえして完了。

新しい水をやっとホースで汲み入れることができる、そのとき、うたった目覚めの歌、

やっと三度目に本来の調子でうたうことができた。

ほんとうによく目覚めてくれたね。

ホースで汲むだけなのであとは楽だ、かなり長い時間かかって水を汲みおわると、水槽のある小屋に

日光浴用のすのことスロープをとりつける。

完了!

カメをタライから出してやり、水槽のなかに放すと、

さいしょは物陰にもぐりこんでいたが

話しかけてやるにつれて、こちらを向いて顔をのぞかせ、

鼻先を水面のうえに突き出すしぐさをしたので、警戒心がすっかり薄れたのがわかり、

可愛いね、とひときわ褒めちぎる。

そして何度もふだんめったに出さないような甘ったるい声でカメの名を呼ぶ。

いまはまだ食べられないだろうが

あんずの花が咲く頃にはホタテの切れはしを食べはじめている頃だ。

目が覚めてくれてよかった、

冬眠のあいだじゅう、心配だったんだ、

これから美味しいものをいっぱい食べて、たくさんの楽しい時を過ごしていこうね。楽しいのはわたし?

カメはほんとうにいつも、わたしにたくさんの幸せをくれる。