温室育ち

2023年01月27日

タクシーとばして植物園へ、

温室のなかは南国の木々が生い茂り、

そのあいだに池が。

ほの暗い水面に姿を映すのは

たくさんの朱い金魚と

そしてたったいっぴきの白い金魚。

ゆらめき、身をひるがえし、暗い水底に色彩を放つ。

しばらく撮っていると

温室のスタッフさんがやってきて

水面に餌を放る。

大喜びの金魚たちは夢中で口をつきだして餌をほおばる。

そんな光景を見ていると、

これまで落ちこんでいたことも忘れそうになる。

撮ってもいいですか、というと、

いいですよ、というので、後ろ姿を撮らせてもらったけれども、

あまりいい写真にならなかったのが残念だ。

こんなことならスタッフさんともっとじかに言葉を交わしたかったなあ、

金魚たちの可愛さとか、

植物たちの生き生きしたさまを褒めたりしたかった。

ちょっと休憩しようと出口に向かうと、

茂みが途切れたあたりに

蘭が気品ある姿で咲き誇っていた。

大輪の花に小さい花、紫色のに黄色いの、どれも美しい。

いい写真になった、

さぞ大切に育てられたのだろう、なんともいえず優美な姿かたちをしている。

高貴な身分に生まれついて温室で育てられ

外のつめたい風も知らない。

ときには他の花たちに嫉まれながらも

スタッフさんに助けられ温室に守られて美しく咲いている。

わたしはこの蘭のように美しくはないけれど

やはり温室育ちで、さまざまな苦労を知らないでいるのだとおもう。

食べるためだけに働いたことも、ほとんど経験せず、

のんびりと家事をして

ときにはこうして休んで植物園の麗しい空気を吸いにも来ることができる。

帰りはタクシーとの待ち合わせ場所までずいぶん歩いた、

家に戻って疲れた体をゆったりと自室のベッドに横たえていると、

あの素晴らしい温室が記憶によみがえり、

じぶんはなんて恵まれているのだろうと思い知らされる。

いまはただこの感謝を伝えたい、

陰でわたしたちの生活を支えるべく働いてくれているすべてのひとたちに、また、

温室のスタッフさんたちに。