穏やかな一日
今日は穏やかな日だった、
たまに、こういう恵みにも似た日が訪れる、
ずっと鳥を待っていた、
カメラをもって。
ベランダにも出てみた、
庭にも行ってみた。
低木にミカンがなっているから、
それを食べにくるかもと思い、
ちょっと木陰になったところからミカンをフレームに収めてみる。
試し撮り、いい感じ。
細い声がどこからか聞こえる。
けれど、わたしが狙っていることを知っているのか、
小鳥はすがたを現そうとはしなかった。
みかんの木とは逆のほうで、
がさがさ、物音がする。
あの子だな、とだいたい見当がつく。
いつもよくうちに来る小さなお客さんがいて、
地面の虫をついばんでいるらしく、よく頭を地面につっこんでがさがさやっている。
すがたは見えないけれど、その子にちがいない。
いつもひとりでエサを探しているから、
それに、うちにいることに決めたようだから。
わたしはその子のすがたを探す。
ムクドリぐらいの大きさで、茶色い地味な、けれどつぶらな瞳をした可愛い鳥を。
音のするほうへ、いつも不用意に鳥に近づいてしまう、
とうぜん鳥は逃げるのだけれど、その子はどういうわけかわたしに比較的なれていて、それほど逃げない。
向こうの茂みに行ったようだ。
わたしがレンズを構えて地面を探していると、
飛びあがる羽音がした。
常緑樹の茂みのなかにまぎれこんでしまったらしい。
わたしは目を皿のようにして探した、
すがたは現さない。
もうあきらめて帰ろうかというときになって、枝にかすかな影を見とめた。
レンズ越しにのぞくと、まぎれもなくいつもの子だ。
茶色く丸っこくつぶらな瞳をしている。
レンズの向こうでその子は、上を向いたり、そっぽを向いたり、
あるいは素敵なシルエットでポーズを決めている、わたしは静音でそれを連写する。
ひとつひとつの愛らしい動きがカメラに刻まれていく。
じゅうぶん撮ったかな、と感じられたので、ありがとう、モデルお疲れさま、とお礼をいって、
そこをあとにする。
わたしはその日ピアノを弾いた、心から晴れやかな旋律はひさびさだ。
それからヒースとマロウ、野の花を摘んだお茶を淹れて飲む、
素人のハーブティというのは美味しいものではない、けれど、心を落ちつかせる味がした。