銀杏並木の公園

2022年12月02日

助手席でふと左手を見やり、

運転席の父との会話のあいまにつぶやく、

あ、きれいな銀杏並木。

見頃を迎えた銀杏並木つづく公園が見えたがそれもつかのま、

あっというまに走りすぎてしまった。

クルマは橋をわたっていく、

父が、せっかくだから、どこか寄っていくかい、という。

わたしはこたえる、

さっき、銀杏並木のきれいな公園があったんだけど。

橋をわたるかわたらないかのところの。

するとクルマは引き返し

今度は右手に目を凝らしていると、橋をわたってほどなく公園のすがたが見えてくる。

父が大通りから逸れて左折し駐車スペースにクルマを停める。

交差点をわたって少し歩いて後戻りすると

金色に色づいた、堂々とした、でも木にしてはまだ若い銀杏並木が迎えてくれる。

わたしたちは公園の入り口をくぐる。

お母さんも連れてくればよかった、こういうところ好きだから、

と父はいうが、

いま具合がわるいから無理だとおもう。

こんどまたいっしょに来ようね、というと、そうしよう、と父もいう。

金色の並木道をすすんでいくと、脇に小さな池があった。

わたしはそちらのほうへ進み

太鼓橋をわたっていく途中で歩みを止める。

緋鯉がいた。

赤いの、金色の、黒と赤のまだらの、四、五匹はいる。

ゆったりと泳ぐそのさまは優美で

体をくねらせたかと思うと、それをやんわりほどいたりして、

わたしもこちらに向かってゆらゆらと泳いでくる鯉たちにつられて

こころから寛いだ心地になってしまう。

さきほどから、ふたりの人物がこちらに背を向けて

そのひとたちもベンチに座って寛いでいる。

池の水面には明るい色の銀杏の落ち葉がしっとりと浮かんでいる。

ドウダンだろうか、赤く紅葉している木もあって、

さながら錦のようだ。

こちらに橋をわたってきたそうなひとがいたので道をゆずり、

あらためて橋をわたりきると

築山の林のなかの小道を行くことにする。

守られたような暗がりのなか敷石がつづいているほうへ進んでいく。

木の葉散り敷く道だ。

やがて築山を下ると木陰の小道はとぎれて、

銀杏並木の通りと合流する。

いい散歩だった。

父は何か食べてから帰らないかというが、わたしはこのまますぐに家に帰ることを提案した、

なぜってこの小さな散歩道の余韻を消したくないから。